子どもの算数不安:サイン・原因とそろばんでできること

執筆 · 10年間の指導経験

そろばんの前に座る落ち着いた子どもを励ます保護者

「ぼく、算数が苦手」。8歳になる前にこのことばを聞く保護者は少なくありません。テスト前の腹痛、宿題での涙、簡単な計算を前にしての固まりが伴うこともあります。それは算数不安かもしれません。多くの家庭が思うよりもよくあることで、そして和らげることもできます。

この記事では、子どもの算数不安について研究でわかっていること、そのサインの見分け方、そろばんを使って落ち着きと自信を取り戻す方法を紹介します。最初に正直にお伝えすると、そろばんそのものが算数不安を治すことを示した確かな研究は、私たちの知る限りありません。研究が支持しているのは、具体物、小さな成功、低いプレッシャー、支えてくれる大人といった原則であり、そろばんの練習はそれらを実践しやすくしてくれます。

算数不安とは何か(何ではないか)

算数不安とは、算数の成績をさまたげる緊張・心配・恐れの感情です(Ashcraft, 2002)。算数が苦手であることとは同じではありません。力があっても不安が強い子もいれば、つまずいていても不安のない子もいます。ただし両者はしばしば互いを強めます。不安が回避を生み、回避で練習が減り、練習が減ると力が弱まり、さらに不安が強くなるのです。

算数不安は早くから始まります。小学1・2年生を対象にした研究では、算数不安はすでに見られ、成績の低さと関係していました。意外なことに、その影響はワーキングメモリの高い子どもで最も強く現れました。ふだん問題を解くのにワーキングメモリを頼りにしている子どもたちです(Ramirez et al., 2013)。心配ごとが、数を頭にとどめておくための「心のスペース」を奪ってしまうのです。

気をつけたいサイン

算数不安の表れ方は子どもによって違います。よくあるサインは次のとおりです。

  • やってみる前から「苦手」「できない」「算数きらい」と言う。
  • 算数のある日やテストの前に、おなかや頭が痛いと訴える。
  • 特に時間制限があると、固まったり当てずっぽうで答えたりする。
  • 宿題を避ける、急いで終わらせようとする、1つのまちがいで崩れてしまう。
  • リラックスした練習ではできるのに、テストやタイムを計るゲームでは大きく下がる。

サインが1つあるだけで判断はできません。数週間くり返し見られるパターンに注目しましょう。

大人から伝わる不安と、それを防ぐ方法

子どもは大人をよく見ています。ある研究では、算数に不安をもつ女性教師に1・2年生で教わった女子児童は、1年の間に算数の成績が伸び悩み、「男子のほうが算数が得意」という固定観念を受け入れやすくなっていました(Beilock et al., 2010)。別の研究では、算数に不安のある保護者の子どもは1年間の学びが少なく、不安も強くなっていましたが、それは主に保護者が宿題をよく手伝っていた場合でした(Maloney et al., 2015)。

よい知らせもあります。手伝い方が大切なのです。家庭で短く楽しい算数のお話を一緒に読んだ家族では、子どもの1年間の伸びが大きく、保護者の不安に関連した差も小さくなりました(Berkowitz et al., 2015)。穏やかで前向きな算数の時間を定期的にもつことが、子どもを守るようです。

具体的には、「お母さん(お父さん)も算数は苦手だった」と言うのを避け、まちがえたときも声のトーンを変えず、まちがいを失敗ではなく情報として扱いましょう。「どの珠が動いたか見てみよう」というように。

不安の強い子にそろばんが役立つ理由

上手に使えば、そろばんにはプレッシャーを下げる特長がいくつもあります。

  • 具体的である:数が見て触れる珠になるので、ワーキングメモリにとどめておく量が減ります。まさに不安が奪ってしまう資源です。
  • 自分で確かめられる:珠を数え直したり動きをやり直したりでき、大人の判定を待つ必要がありません。
  • ごく小さなステップで進む:1けたの1+1から5と10の補数まで、どの段階も成功できるくらい小さく区切れます。
  • 遊びのように感じられる:多くの子は、珠と指の動きを「算数」ではなくゲームのように受け止めます。
  • 成長が見える:昨日むずかしかった問題が今日はかんたんになったことが、自分でわかります。

ただし、長すぎる練習、早すぎるタイム計測、きょうだいとの比較などでそろばんが新たなプレッシャーになると、こうした効果は消えてしまいます。避けたいポイントは家庭でそろばんを教えるときによくある失敗にまとめています。

やさしい4週間プラン

1回の練習は短く(5〜10分)、かならず成功で終えましょう。

そろばんで自信を取り戻す4週間プラン
週ねらい大人のかかわり方
1遊びと探検:数を置いて読むだけ。計算はしない一緒に参加し、わざと「まちがえて」落ち着いて直してみせる
21けたのとてもかんたんな足し算(2+1、3+1)子どもに珠で確かめさせ、使ったやり方をほめる
3すでにできる短い問題を、子どもが選ぶ毎日「できること」を1文記録する(例:「5珠を使って4を足せる」)
4新しい小さなステップ(5の補数など)。時間は計らない他の子ではなく、1週目の自分とくらべる

速さを取り入れるのは、正確さが安定し、子ども自身が挑戦したがったときだけにしましょう。そのときも、他の人ではなく自分の前回のタイムと競います。1日10分のそろばん習慣や学習ステップに、すぐ使える手順があります。

かけることば:プレッシャーではなく安心を

努力や工夫に目を向けたほめ方(「5珠で確かめたね、いい考え!」)は、失敗したあとも挑戦を続ける力を育てます。一方、「頭がいいね」というほめ方は、むずかしい課題を避ける原因になることがあります(Mueller & Dweck, 1998)。

避けたいことばと言いかえの例
こう言うかわりに…こう言ってみる
「早く!かんたんでしょ」「ゆっくりでいいよ。どこから始めるか見せて」
「ちがう、まちがい」「一緒に珠で確かめてみよう」
「頭がいいね!」「いいやり方を見つけたね」
「親も算数が苦手だったから」「親もむずかしかったけど、練習したらできるようになったよ」
「お姉ちゃんはこの年でできたのに」「先週よりずっとかんたんになったね」

専門家に相談したほうがよいとき

不安が何か月も続く、登校しぶりにまで広がる、あるいは定期的に練習してもとても簡単な数でつまずき続ける場合は、担任の先生に相談しましょう。先生やスクールカウンセラー、医師が、算数障害(ディスカリキュリア)のような学習の困難や、より広い不安がないかを確かめ、適切な支援を提案してくれます。そろばんを続けてもかまいませんが、専門家の助言の代わりにはなりません。

まとめ

算数不安は現実にあり、よくあり、早くから始まります。けれども、それで将来が決まるわけではありません。算数が具体的で、安全で、できると感じられるとき、そしてまわりの大人がまちがいに落ち着いて向き合うとき、子どもは数に対して穏やかになっていきます。やさしく使えば、そろばんは不安の強い子にまさにそれを与えてくれます。触れられるもの、毎日の小さな成功、そして自分は伸びるという実感です。

より広い効果についてはそろばんが集中力・記憶力・自信を伸ばす理由を、毎日の取り組みについてはそろばんのやる気を引き出す方法をご覧ください。

よくある質問

子どもの算数不安とは何ですか?

数に対する緊張や恐れが成績をさまたげる状態です。小学校低学年から見られることがあり、単に力が足りないこととは異なります。

そろばんで算数不安は治りますか?

不安をそれだけで治せる道具はなく、そろばんにその効果があることを示した確かな研究もありません。ただ、そろばんの練習は、具体物、小さな成功、自分での確認、低いプレッシャーといった、研究で支持されている原則を実践しやすくしてくれます。

親が算数に不安をもっている場合、宿題を手伝わないほうがいいですか?

必ずしもそうではありません。研究からは、手伝い方が大切だと考えられます。短く穏やかな時間にし、算数を否定することばを避け、子どものやり方に注目しましょう。

時間を計る練習は、不安の強い子によくないですか?

時間のプレッシャーは不安を強めがちです。最初は時間を計らずに正確さを育て、あとから自分の前回のタイムとくらべる、やさしい挑戦を加えましょう。

どんなときに専門家に相談すべきですか?

不安が何か月も続く、登校をしぶる、練習しても簡単な数でつまずき続けるといった場合は、担任の先生や医療の専門家に相談してください。

参考文献