そろばんの練習のやる気を引き出す方法(ごほうびに頼らずに)

執筆 · 10年間の指導経験

そろばんとシールのカレンダーのそばで保護者とハイタッチする誇らしげな子ども

そろばんを始めた最初の1週間はわくわくするものです。けれども3週目には、「やらなきゃだめ?」という声を聞く保護者も多いでしょう。やる気が下がるのはまったく自然なことです。新しさが薄れ、練習がむずかしくなり、ほかの楽しいことも気になり始めます。

目標は毎回の練習を楽しくすることではなく、子どもが「またやろう」と思えるようにすることです。このガイドでは、やる気・フィードバック・習慣に関する確かな研究を、家庭でのそろばん練習に使える具体的な方法にまとめました。

やる気の3つの要素

やる気について最もよく研究されているモデルの1つ、自己決定理論によれば、人は自律性・有能感・関係性という3つの基本的な欲求が満たされると取り組み続けられます(Ryan & Deci, 2000)。どれも、そろばんの練習で簡単に取り入れられます。

3つの欲求をそろばんの練習に生かす
欲求意味そろばんでは
自律性自分で決められる部分があること練習の順番、時間帯、今日のシールの色などを子どもに選ばせる
有能感上達していると感じることほとんどの問題が解ける難しさにし、自己ベストの記録表をつける
関係性大切な人と一緒であることとなりで一緒に練習する、子どもにきまりを説明してもらう、祖父母に成長を伝える

ごほうび:役立つときと逆効果になるとき

有名な実験で、絵を描くのが好きな幼児に「描いたら賞状をあげる」と約束しました。その後の自由時間、その子たちは、ごほうびがなかった子や思いがけずごほうびをもらった子よりも絵を描かなくなりました(Lepper et al., 1973)。約束されたごほうびが、楽しい活動を「仕事」に変えてしまったのです。

すべてのごほうびが悪いわけではありません。大切なのは、そのごほうびが子どもを「操作する」ものか、成長を「知らせる」ものかという点です。

役立つごほうびと逆効果になりやすいごほうび
役立ちやすい逆効果になりやすい
練習のたびに子どもが自分でカレンダーに貼るシール「20分やったらゲームしていいよ」
節目を思いがけずお祝いする(「5の補数をマスターしたね!」)1問ごと、正解ごとにお金を払う
成長の記録を祖父母に見せる練習をさぼったら好きな活動を取り上げる
次にやるゲームやプリントを選べる楽しみ続けさせるためにごほうびをどんどん大きくする

やる気を育てるほめ方とフィードバック

成功したあとに「頭がいいね」とほめられた子は、その後かんたんな課題を選び、失敗するとすぐにあきらめる傾向がありました。一方、努力をほめられた子は挑戦を続けました(Mueller & Dweck, 1998)。そろばんでは、具体的なやり方をほめましょう。「数えずに5珠を使ったね、速かったよ!」

フィードバックは、人そのものではなく、課題や取り組み方、つまり次に何をすればよいかについてのものが最も役立ちます(Hattie & Timperley, 2007)。「よくできたね」と「答えは合っているよ。次は珠を動かす前に、10の補数を声に出してみよう」をくらべてみてください。後者は子どもに目標を与えます。

毎日の交渉ではなく、習慣にする

やる気には波がありますが、習慣は気分の乗らない日も支えてくれます。新しい日課をつくる大人を対象にした研究では、同じ状況でくり返した行動が自動的になるまでに中央値で約66日かかり、個人差も大きいことがわかりました(Lally et al., 2010)。1日休んでも習慣づくりはだめになりませんでした。

また、ときどきの長い練習より、短い練習を間隔をあけて続けるほうが学習には効果的です(Cepeda et al., 2006)。この2つを合わせると、シンプルなルールが見えてきます。同じ短い練習を、同じタイミングで、ほぼ毎日。

  • すでにある日課に結びつける:おやつのあと、読書の前など。
  • 短くする:1日10分のそろばん習慣のように、10分で十分です。
  • そろばんは引き出しにしまわず、机の上に見えるように置いておく。
  • 最初はかんたんな問題から始め、最初の1分を成功にする。
  • うまくいっているうちに終える。気持ちよく終わった練習には、子どもは喜んで戻ってきます。

成長を目に見えるようにする

成長が見えなければ、子どもは上達を実感できません。いくつかの簡単な工夫で、成長が具体的になります。

  • 練習1回ごとにシールを1枚貼るカレンダー。つながっていくシール自体が励みになります。
  • 「自己ベスト」表:2分間で正解した問題数を記録し、子ども自身の過去の記録とだけくらべる。
  • 壁に貼る「できることリスト」:「99までの数を置ける」「5の補数で足し算ができる」など。
  • 月に1回、問題を解く様子を短い動画に撮る。あとで最初の動画を見ると、誇らしい気持ちになることが多いものです。
  • 長い道のりをはっきりした段階に分けてくれる学習ステップのレベル。

やる気が下がる理由と対処法

やる気の低下の多くには、見つけられる原因があります。

やる気が下がるよくある原因と対処法
気づくこと考えられる原因試してみること
2〜3週間で飽きる新しさがなくなり、練習がくり返しに感じるフラッシュカード、オンラインそろばん、親子対決など形式を変える
いらいら・涙ステップが大きすぎる(10の補数が多い)できる段階に戻り、新しい要素を1つだけ加える
「かんたんすぎる」挑戦がなくなっている新しい技能、けたの多い数、自己ベストへの挑戦を加える
練習の時間になると嫌がるタイミングが悪い:疲れ、空腹、遊びの中断もっと落ち着いた時間に移し、短くする
ほかの子とくらべるできないと思われる不安その子自身の過去の結果とだけくらべる

飽きではなく心配が伴う場合(腹痛、「算数が苦手」など)は、子どもの算数不安についてのガイドをお読みください。

興味を取り戻す5つのゲーム

ウォーミングアップや、練習の最後のお楽しみに使いましょう。

  • ナゾの数:保護者が目を閉じて数を置き、子どもが読む。
  • 親に勝て:同じ問題を、子どもはそろばん、保護者は紙で計算する。
  • 1日先生:子どもがきょうだいやぬいぐるみ、保護者にきまりを説明する。
  • お店屋さん:99までの値段カードを使い、子どもがそろばんでお会計をする。
  • トレーニングモードで、子どもが選んだ速さのフラッシュ暗算に挑戦する。

まとめ

やる気は、子どもに「ある」か「ない」かで決まるものではありません。選べる部分があり、成長の手ごたえがくり返し得られ、温かく見守る人がいるとき、やる気は育ちます。そして練習が毎日の短い習慣になっていれば、気分の乗らない日も乗り越えられます。約束のごほうびはやめ、やり方をほめ、成長を見えるようにし、興味が下がったら難しさを調整しましょう。

子どものやる気をそぎやすい失敗については、家庭でそろばんを教えるときによくある失敗をご覧ください。

よくある質問

そろばんの練習のやる気を引き出すには?

選べる部分をつくり、ほとんどの問題が解ける難しさにし、カレンダーや記録表で成長を見えるようにし、一緒に練習し、毎日同じタイミングで短く取り組みましょう。

練習したらごほうびをあげるべきですか?

毎回の練習に約束のごほうびをつけるのは避けましょう。子ども自身の興味を下げることがあります。成長を記録するシール、節目の思いがけないお祝い、選べる楽しみなどがおすすめです。

そろばんの練習時間はどのくらいがよいですか?

小さな子どもの多くは、1日10分ほどで十分です。週に1回の長い練習より、毎日の短い練習のほうが効果的です。

子どもがやめたいと言います。どうすればいいですか?

飽き、ステップが難しすぎる、タイミングが悪い、ほかの子との比較など、原因を探しましょう。やめると決める前に、レベルを調整し、形式を変え、時間を短くしてみてください。

練習が習慣になるまでどのくらいかかりますか?

個人差が大きいです。大人を対象にした研究では、新しい日課が自動的になるまで中央値で約66日でした。同じタイミングで続けることがいちばんの助けになります。

参考文献